数ある公営団地開発会社のひとつという認識しか持たれていなかったピーボディ・トラスト社が、再生可能資源の活用を徹底的に目指した団地の建設にのりだした。彼らのコンセプトは果たして実際にどれだけ機能するのだろうか。住民が移り住んでくる日も近い。ジョージ・マーシュが取材した。
屋根に鎮座する大きな換気筒、風にあおられてみな同じ方向をむく風見鶏 ― ロンドンのヴィクトリア駅からハックブリッジへと向かう車窓からまず目に飛び込んでくる風景だ。二つ口の換気筒のかさにそれぞれ色とりどりの塗装が施され、その存在感を強調させている。この換気筒が南ロンドン郊外のべディントン・ゼロエネルギー住宅団地(BedZED)で82戸のアパート・マンションとオフィスを合わせた1600平方メートルに及ぶ空間を、電気を使うことなく換気するシステムの象徴である。換気筒の前方開口部からは新鮮な外部の空気が建物へと流れ込み、もうひとつからはよどんだ空気が排気される仕組みだ。換気筒下部には熱交換器が設置されていて、排気に含まれる熱はここで回収され再び建物に戻される。 自然エネルギーをうかがわせるものは敷地に足を踏み入れるとまだまだ見つかる。主要な棟(ひと昔前のテラスハウスの様な外観)の南側の側面はすべてガラス張り。最上階に設けられた屋内テラスと屋根には太陽電池パネルもはめ込まれていて、もう見るからに‘ソーラー’だ。太陽電池パネルはずらりと直線的に配列されているのではなく、ガラス面に沿うように並べられているので建物の外観も悪くない。透明な多結晶シリコンでできたこれらのパネルはBPソーラー社と合併したSOLAREX社の製品で太陽輻射熱のおよそ14%を電力に変換する能力を持ち、発電された電力は幹線を通して団地内の各住宅やオフィスへ供給される。このパネル設置コストの約35%は欧州委員会による5th Framework(第5次研究開発枠組計画)が資金援助をしている。総表面積700平方メートルに及ぶこの太陽電池パネルからは40台の電気自動車を充電できる109kwもの電力が発電可能で、投資金は13年のうちに回収できるだろうと開発者であるピーボディ・トラスト社はみている。もちろん、電気自動車という発明がなかったら、資本回収どころか電力の余剰供給に頭を悩ます結果になっていたかもしれない(BedZEDでの電気自動車利用については後述参照)。またイギリス通商産業省からの補助金を含めるとコストの50%を外部資金で調達できることから、このSOLAREX社製パネルの経済性は従来型の非結晶シリコン製太陽電池パネルの倍に及ぶものとArupコンサルティング・エンジニア社は試算している。 先に述べたようにBedZEDの建物は南側の側面から太陽エネルギーを存分に取り込めるようになっており、獲得した暖気は屋内テラスの暖衝スペースと二重・三重ガラスの窓やドアで漏らさないよう工夫されている。北側の側面はというと、ガラス面は南側に比べるとごくわずかで屋根の急勾配が側面の大部分を占める格好になっている。その屋根に設けられた天窓からは自然光が存分に差し込むので、照明器具の使用を極力控えることができそうだ。‘グリーン’推進建築家として知られるビル・ダンスター氏と建設会社Ove Arupが協力して断熱性と遮断性に取り組み、極めて機密性の高い建物に仕上げたという。外壁と内壁の間、あるいは屋根部分に使用している断熱材は厚いところで300ミリもあり、北欧の基準よりもさらに厚い。暖かい季節には蓄熱し寒い季節にはその熱を放射する熱調整の機能を建物自体が持つように、建材もまた慎重に選び抜かれた。壁面のれんがをできるだけ密に並べ上げ、天井にはコンクリート板を用いたのもそのためだ。
電力と熱源 セントラル・ヒーティングのない住まいを好んで購入しようという人はあまりいないだろうが、ここBedZEDの住宅やオフィスでそのシステムは必要ない。ピーボディ・トラスト社のコンサルタントとしてこのプロジェクトに抜擢されたのはみな斬新で革新的な住宅構想でその名を知られる建築家ばかりで、彼らが設計の段階からその点を慎重に計算したからだ。同規模の集合住宅には通常100基は必要であろうボイラーやそれに伴うラジエーターや配管などをすべて省略し、その役割をB9 Energy Biomass社製のCHP(combined heating and power : 熱電併給)ユニット1基で担う事を可能にしたのである。この小型のガス化プラントは、居住区から少し離れたスポーツ・レジャー施設建設予定地に隣接して建てられている。 再生可能エネルギー専門のコンサルタント会社Bio Regional代表でBedZEDのプロジェクト・マネージャーを務めるニコル・ラザラス氏によると、BedZEDに建設されたこのガス化CHPユニットは都市居住区に建設されたものとしてはイギリス初だという。原料には将来的に、ごみとして埋め立て廃棄処分となるはずの不要木材のチップ(ロンドン自治区では年12万トンがごみとして捨てられる)を地元で回収して使用する予定だそうだ。ユニットの大きさも開発が重ねられて縦12メートル横10メートルとかなりコンパクトになった。マーレーにあるブラックウォーター・バレー博物館で数年前から稼働を続けているB9 Energy社製の初期型CHPと同じく熱電併給のダウンドラフト方式のガス化炉で、BedZEDに熱・電力それぞれ130kwを供給する。またB9 Energy Biomass社のマーケティング・ディレクターであるキース・カーナン氏はBedZEDに建設したCHPの特徴として、廃液を出さないガス化工程(特許取得)や無人運転が可能な点、また北アイルランドの本社からでもインターネットを通じて稼働状況をモニターできる点などを挙げている。万が一誤作動が生じた場合にもすぐに対応できるよう、地元でメンテナンスにあたる請負業者を現在選定中だという。はじめのうちは原料に液化天然ガスを使用する予定で、国から電力を買った方が安い夜間には稼働を休止するものの、このユニットを年中無休で稼働させることを当面の目標にしている。 ダウンドラフト方式のユニットでウッドチップを原料としてガス化するには、まずはじめに50%ほどあるチップの水分含有量を15%程度にまで下げなければならない。そして精製されたガスは不純物を除去した後冷却され、Scania社製6気筒・14.2リッターの点火型ディーゼルエンジンに燃料として送り込まれる。この工程は一定の速度に保たれ、インバーターと制御回路を通して幹線に電力を供給する発電機が稼働し、幹線から各住戸へと送電される仕組みである。さらにBedZED内の電気需要が低い時には自動遮断装置が作動し、受電・配電盤を通して公共の送電系統に電気を供給する。そして需要が高くなれば逆に受電することも可能になっている。また、ガスを冷却する際に遊離する熱を利用して水を温め各家庭に給湯するという工夫もひじょうに効率的だ。各家庭の給湯器内部にはコイル状の熱交換器が設置してあり、CHPから供給された温水の流量と温度変化を計測してその数値を光熱費請求の基準にするそうだ。またCHPからの供給が何らかの理由で停止した場合に備えて、各家庭には電気コイル型湯沸し器も備え付けられている。(ガスの供給は一切おこなわれない。)
もちろんこのCHPユニットの運営・管理費はすべて住民の負担となるわけだが、せっかくの暖気の半分以上を大気に逃がしてしまう普通のイギリス家屋とは違いひじょうに機密性に優れた建物であり、また余剰電力は売ることもできるため、負担は小額に抑えられる見込みだ。(来年の年明けに最初の入居者として引っ越して来る3LDKのマンション購入者は、通常同じ広さのマンションでは平均750ポンドかかるといわれる年間光熱費がここでは250ポンドで済むと聞いているそうだ。)CHPプラントの屋根部分には太陽電池パネルをさらに増設する計画だという。CHPの燃料として使用するウッドチップはごみとして回収されるものである。切り倒さずにすんだ木は成長を続け、CHPが排出する程度の二酸化炭素なら吸収してくれる。そのためCHPは大気中の二酸化炭素を増加させないカーボン・ニュートラル(Carbon−Neutral)として注目されている。
BedZEDで試される太陽電池発電 イギリス通産省次官パトリシア・ヒューイット女史はBedZEDを見学した際の会見で、総額2千万ポンドを投じる太陽エネルギー発電計画の一環として住宅やオフィスを対象に自然エネルギー発電による電力供給システムを整える計画があることを発表した。この資金は通産省の大規模太陽電池公開実験プログラム(PV MDP)用に組まれた国家予算の一部で、将来3年間にわたり太陽エネルギー技術のコスト削減のために投じられる。既存の建物にソーラーシステムを整備したり新築物件に導入したりする場合には、プライベートセクター・パブリックセクターを問わず補助金を支給する。この投資によって2005年までにイギリス国内の太陽電池設置件数がこれまでの10倍に増加すると見込んでいる。またヒューイット女史は、BedZEDが再生可能エネルギー技術をどのように住宅やオフィスに組み込むことができるかの良い見本であると賞賛した。 ピーボディ・トラスト社社長リチャード・マッカーシー氏は次のように話す。「BedZEDは、環境を破壊することのない持続可能なコミュニティーを建設しようという強い信念を持った者が革新的なデザインと卓越した建設技術をもって開発に臨んだ、ヨーロッパを代表する都市開発モデルのひとつといえるだろう。建設・住宅・エネルギーなど各業界に与えた影響も大きい。ゼロエネルギー住宅が夢物語であるどころか、環境に与える悪影響を最小限にとどめつつ生活水準の向上を目指すためにどれほど大きな役割を果たすものかが証明できたと思う」。 先に、エネルギー省大臣ブライアン・ウィルソン氏が通産省の太陽エネルギー政策案として以下の内容を発表した。 ●学校・劇場・教会・スポーツセンターなど公共施設にソーラーシステムを導入する費用として4百万ポンドを投入する ●ソーラーシステムを採り入れた公営・私営の住宅・フラット・バンガロー計380戸の建設に4百万ポンドを投じる
持続性 このプロジェクトにおいての一貫したテーマは、再生可能エネルギーの効率的な利用である。社会的観点においては住宅とサービス関連施設を個々にではなく一体として捉えることで、二酸化炭素の排出や環境に及ぼす悪影響、エネルギー消費などを最小限に抑える工夫をしている。例えばグリーン・トランスポート計画のひとつとして、固定維持費を払わずに必要な時にだけ車を利用できる自動車クラブを設けるという。利用者は車を乗った時間に応じて料金を支払うシステムで、近距離のドライブには電気自動車を利用してもらうオプションも検討しているそうだ。数名で一台の車を所有する形態はカープールと呼ばれ、スイス国内、ベルリン、エジンバラのシティー・カー・クラブではすでに浸透している。年間走行距離が7-8000マイル程度のメンバーの場合、個人で所有するよりも車にかかる経費を年間約1500ポンドも節約できるという。それでもやはり自分自身で車を所有したいという場合、電気自動車を購入すれば政府の‘パワーシフト’計画によるEnergy Savings Trustから2000ポンドの助成金が出る。ピーボディ・トラスト社は最初の1年間で10名ほどの住民が普通自動車から電気自動車に買い替えるであろうと予想しており、まずは車5台分の充電所を設置することにしている。 自転車利用者のためには、安全面に配慮した地下駐輪場を設ける。英サイクリング方策(National Cycling Strategy)のガイドラインに従い、アパート1部屋に対し1台分、マンション1戸に対し2台分、タウンハウス1件に対しては3台分の駐輪スペースを確保するほか、シャワー設備を備えた作業スペースを完備、また地元のサイクリングロードまでの連絡道も整備し、駐輪場内にちょっとした修理工場も設けたい考えだ。ピーボディ・トラスト社はさらにバス、電車、コーチ、トラムの利用も呼びかけるほか、混み合う時間帯にはミッチャム・ジャンクション駅までの送迎バスを独自に運行させる計画もある。また車に依存する体質から脱却するためにインターネットでの買い物を奨励したい考えで、各住戸にブロードバンド対応のインターネット設備を完備する(もちろん電話回線とケーブルテレビも)。住民が乗り物を利用する回数を減らすために、地元の食料品店には生鮮食料品や有機野菜の宅配サービスを依頼している。またトラスト社はBedZEDには住宅だけではなくオフィスも設けていく構想で、まずは125名ほどの住民がBedZED内の自宅近くで働ける雇用環境を整え、通勤時の乗り物利用を緩和したい考えだ。Bio Regional社と建築家のビル・ダンスター氏もここBedZED内にオフィスを構える予定だそうだ。 光熱費を節約し環境に与える悪影響を少しでも減らすために、入居者たちにはなるべく省エネルギータイプの家電製品を使うよう呼びかけている。また床材もカーペットではなく太陽エネルギーを反射しやすいリノリウムやタイルを使用すること、暖気を効率よく循環させるためにドアと床面の間を最低200ミリは空けておくこと、などを徹底して欲しいという。トイレ洗浄と庭の散水にはグリーンウォーター―屋根から回収する雨水と敷地内で処理される汚水―を利用して上水を節約する。またキッチンのシンク下にはリサイクルを徹底する目的で4分別のごみ箱を設置した。敷地の緑化にも力を入れていて、庭や温室に加え建物の屋上にもちょっとした芝生と花壇のスペースを設ける工夫がしてある。‘スカイガーデン’という名前はちょっと大げさという印象を受けるが、このスペース(住民が自由に使えるが、個人的な所有はできない)は団地の住民が増加して敷地が手狭になった時には憩いの場として活用されるに違いない。またBedZEDが新たな自然を開発することなくブラウンフィールド(再開発するために土壌や地下水を浄化した旧産業用地)に建設されているという点も、これからの都市開発のモデルとして注目したい。建設材料(木材や鉄など)には積極的にリサイクル品を使い、他の用材もなるべく周辺で入手するよう努力しているという。
BedZED ―エネルギー・オスカー受賞住宅― BedZED(Zero Energy Urban Village)は栄えあるエネルギー・グローブ賞の“ハウジング・アンド・ビルディング”部門を今年受賞した。本年度のエネルギー・グローブ賞の受賞作品は、3月6日にオーストリアのリンツで開かれた“エネルギー祭”で表彰された。1300にも及んだ審査対象のうち、今年は6つのプロジェクトが最優秀賞に選ばれた。 エネルギー・グローブ賞に関する詳しい情報は: Christine Oehlinger, O.Oe. Energiesparverband, A-4020 Linz, Landstrasse 45 Austria. Tel: +43-732-7720-14861; Fax;+43-732-7720-14383; e-mail: christine.oehlinger@esv.or.at; www.esv.or.at
BedZEDに移り住むことを決めた人達はみな、何よりそのライフスタイルに共感を覚えたからに違いない。前例がないだけに、この‘エコ’住宅で普通住宅に劣らない快適な暮らしが営めるかどうかの保証はまだない。だがサイト・マーケティング担当のトックス・アジェトゥンモビ氏は、住居を100%所有権で購入した人も、シェアード・オーナーシップ(共同所有権方式住宅購入制度)を利用する人も、賃貸契約で共同住宅に入居する人も、誰もがここでの暮らしに満足するだろうと確信している。BedZEDの完成が予定より数ヶ月遅れていることは事実だが、見学に訪れた入居希望者たちの表情にはこの草分け的プロジェクトに対する期待と興奮があふれていた。対照的に、電気自動車の購入予約がまだ二台しかないと話すアジェトゥンモビ氏は少し残念そうだ。高額な電気自動車はまだまだ市場に浸透しているとはいいきれない。助成金が出るとしてもなかなか決断できるものではないのが現状だ。それでも、そのうちに必ずグリーン・トランスポート計画が世間の注目を集めるものになるという点には自信を持っている。また郊外の住宅団地は孤立してしまいがちな傾向があるが、ベディントンの開放的な敷地と建築様式がうまく地域社会にとけ込むことをピーボディ・トラスト社をはじめこのプロジェクトの関係者はそろって期待している。都市生活の新しいモデルとして出発するBedZEDが背負っているのは開発者側の命運だけでなく、この刺激的で革新的な住宅団地に住まうことを決めた人々の将来そのものだ。みなの期待はどれくらい現実のものとなるのだろうか。結果はじきにわかる。
(翻訳:塚田かおり) 写真はすべてジョージ・マーシュ氏撮影