OM研究所 現在未来 INTERVIEW vol.3 2004/6/18 OM研究所所長野沢正光 その3
N :野沢正光  T :丹羽朋子
think globally act locally ライネフェルデの事例
N : 前2回は何の話したんだっけ? 田んぼと?

T :

それは前回で、(1回目は)京都の話と竪穴式住居。今日はこれ(書籍『団地再生のすすめ』を取り上げて)、団地再生です。

N :

急に重たいね。

T :

まず素朴な疑問ですけど、どういう側面からこの(団地再生の)話に興味をもたれたのですか?

N :

だってあれだけ卒業設計の中に団地再生があって、あれだけ展覧会が賑わったということ自体、僕が面白がってっていうか、時代が結構面白がってる。

T :

そうなんでしょうけど、野沢さん個人の興味としては?

N :

僕はね、すごく上手に誘われたの。田んぼと一緒だね(笑)。誘われると乗りやすいタイプなの。僕が大高事務所でバイトしてた時にスタッフだった人で、ドイツが長い、とんでもなく変な人がいて。(その人の話では)ドイツ統一によって西ドイツにかなりの負担がきた。もっと言うと東欧圏の負担があるわけだよ。つまり、国境を接してる向こうでCO2やNOXがすごく発生してて、あのチェコスロバキアの石炭の煙が来るとドイツの黒い森の樹木が枯れちゃうとか。合理的な社会構造ができてない大量の国家が東側にずっと広がっているわけ。ドイツ人たちの中で動きがあって、ちゃんと憶えてないけどどこかに書いてある… 東ヨーロッパ圏に1億7千万人くらい住んでいる7000万戸の廃墟になりつつある集合住宅群がある。5000万戸かな? それがプレキャストコンクリートのソビエト型の集合住宅ね。それについてみんなで少し考えないか、と言われて。

T :

具体的にそこでの問題があったわけですね。

N :

そこのっていうか(それでも)雲をつかむような話だった。ちょっといいなと思ったのは、建築家って日本中を飛び回ったり最近は海外でも仕事するけど、どこか地面についてる仕事じゃない? 僕は前から、日本で設計してると日本の建築にしかならないなと思ったりすることがよくあって、日本の建築は訛ってるなって。つまりどうしたって道具も何も日本流にアレンジされてて、向こうで見るようなものはこっちにない。何も向こうのが欲しいってわけじゃないんだけど、何故こんな風に変形していくんだろう、変わったものが出来ていくんだろうって。薄いレンガのようなタイルとか。そんなことを思ってて、日本の建築家は僕も含めて日本のことしか考えないなって。
そしたらその人は風呂敷でかくて、「世界では…」とか言い出したわけだよ。例えば『国境なき医師団』まで持ち出すと話は大きくなり過ぎるけど、自分の仕事のサービスや地域だって悪くないんだけど、「考えることはグローバルに」って、"Think globally, Act locally"ってやっぱり格好いいし、そうしないと日本でやっていることを相対化できないだろうと。日本だけがスクラップ&ビルドしてるというけど、そのこと自身がどう相対的に存在しているか知るのは大事だと思ったりしてたものだから。考えるだけである種グローバルな貢献ができるっていうと格好よすぎるけど、(そんなことが)出来るなら、このローカルな商売にしてはそんな機会もいいんじゃないかと思ったわけ。そんな話をし始めた頃は、ライネフェルデって街のことはまだ誰も知らなかった。それで向こうでその手の国際会議に出たらライネフェルデの市長が来てて、行ってみたら「あ、こんなことやってるんだ!」ってことになったの。
僕たちがまだ学生の頃、オランダのハブラーケンっていう建築家がサポート・インフィル(SI住宅)を提唱してて、すごく面白い建築家、今もご存命。そのハブラーケンの影響を受けた人が、特に団地の建物の骨だけを、パネル住宅のパネルの部分をスケルトンというかサポートと見なして、それを壊さずに団地改修するということをSIと同じ考え方でやれないだろうかと思ってたんだよね。実際に行って見たら様々な方法でやってた。西側の知恵とか考え方で、手始めにショールームのように東側の廃墟をいろんな格好でやってたんだ。それが面白かった。建築的にも面白かったんだよ。これからはもう新築じゃないっていう時代。団地で、ライネフェルデでも人口が半分くらいに減るわけで、減ったまま団地が残ると半分空き家になる。するとセントラルヒーティングのサービスなんか出来にくくなってくる。他の、払わないというか…

T :

住んでいない家のために…

N :

空家のためにやらないといけなくなる。だから半分壊したりなんかして、再度マスタープラン作り直して、それ以上減らないようにクオリティを上げて、みたいなことを考えることが必要になる。

T :

(事態が)進んでますね。この本(『団地再生のすすめ』)を読むと、ニューヨークやイギリスでは廃墟みたいになってしまった団地があって、それを何とかしなくちゃみたいな話が中心だけど、日本はそこまでの所はまだないんじゃないかと… (住人が)高齢になって不具合が出てきたとかはあっても、丸ごと荒れてしまって困っているような所はまだないですよね。

N :

まだまだないでしょうね。というかそうなる前に壊しちゃうから。

T :

それもあるか。

N :

今のそのライネフェルデを片付けて… 片付けてるったって、さっき言ったみたいにショールームみたいに片付けてるわけで、東欧圏を今歩くと(まだ)惨憺たる状態かもしれない。東欧のその手の集合住宅は、工場を作って労働者を呼んでその郊外にバサッとセットで造る社宅みたいなものだよ。で、工場は潰れてしまったりしてどこにも行けない人がここに残ってる。だからもう青息吐息だろうし、シベリアに建ってるやつなんかと同じタイプのが建ってるわけだから、ヒーターが止まったりしたらもう…

T :

生きて行けませんよね。

N :

知床辺りで地震があったときにパタパタ倒れたじゃない?北方領土とかあの辺で。あれも同じタイプのものを持ってきてる。パネル住宅で、あの辺は日本列島とつながってる地震帯の上だから、全部倒れちゃった。

T :

ふーん。

N :

だけど逆にいうとソビエトの考え方っていうのは、ここ数十年間とても大きな影響を自由社会側に与えてて、それを真似して「あ、そういうことやってるのか」と工業化とかパネル住宅みたいなものが日本でも造られて、もちろん西側ヨーロッパ諸国にだっていっぱいあるわけ。オランダにもびっくりするようなでかいのがある。やっぱりどこかでこう… 相手を商売敵じゃないけど、もう一つの文化として見ながら、凄いなと思って真似したりしてるわけじゃない? へーベルだってそれ(のひとつ)で、元々はロシア製なんだよ。

T :

ふーん。

N :

発泡軽量コンクリートっていうのは、大型パネル住宅で壁自身にある程度断熱性を持たせて、軽量で組み立てられるものができないかということで、オートクレーブ養生のときに発泡させてパネル化する。すると普通の重量コンクリートのパネルよりも空気の分だけ軽くなって、しかも断熱性能もある。確か『シリカリチート』って商品名で日本に最初に入ってきたんだけど、何でシリがカリでチートなのかちっともわかんない。

T : だってロシア語なんでしょう? どうしてそんな名前まで知ってるんですか?(笑)
N : っていうかへーベルって、最初日本に持ってこられたときには、『シリカリチート』って商品名で売った時期があったと思うんだけど。北系の技術でつまりは断熱兼用。元のパネル厚は30センチなんだよ。

T :

…30センチ!

N :

だから一種の積木みたいな、積木っていうかパネル。カードボードアーキテクチャってあるじゃない? 30センチだから断熱なしで、内側からずっとヒーティングし続けると15センチぐらいのところまでぼーっと暖かくなって、外から零下20℃の寒さがずっとくるけど、真ん中辺で何となく均衡してるような… そんな造り方。それを日本人がどうやったかというと、その土練器みたいなところからにょろにょろとコンクリートが出てくるでしょう? ワイヤを2本ぴゅっと立てて「こんな厚さ要らない」と。どっと出てくるやつが2枚、3枚に切れてくの(笑)。で、10センチになっちゃった。更に薄くしちゃえって3本立てたり4本立てたりすると、最後に金網入れろとかいって2.5センチ、釘で打てますみたいな発泡コンクリートパネル、サイディング用みたいなやつ。ああいうの。

T :

あります、あります。

N :

日本人って、さっきのレンガタイルもそうだけど、みんなどんどん…

T :

薄くしちゃう。

N :

もうこれ以上薄くならないと思うような… 日本人は何でも小さくするっていうけど、薄くするんだよ。今の日本は鉄骨造でこのパネルを外側に貼る。元の30センチ(を積み上げるだけ)じゃ建たないから。

T :

そうですね。

N :

倒れるから。さっきの北方領土の地震の話みたいに。まぁ、なるべく団地の話からそらせよう、そらせようとしてるの(笑)。

 
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