奥村 じつは昔、設計の仕事をはじめたときに「錠前は堀」と言われました。 古川 それは僕の世代でも最初に先輩に言われました。きっとそういう設計者は多いのではないでしょうか。 奥村 というわけで、錠前については堀さんに聞こうということで、本日は虎岩さんにおいでいただきました。錠と鍵については、もちろん防盗の仕組みであるとか、最近ではピッキングの問題もあるけれど、それだけでなく「どうだ、開けられるもんなら開けてみろ」という、錠前づくりの心意気なども聞かせていただきましょう。
虎岩 堀商店は明治23年(1890年)に創業して今年(2002年)で112年目。現在の社長で4代目です。日本はもともと錠前のない国でしたが、だんだんと錠前が必要になり、イェール(Yale)やコルビン(COLBIN)、シュラーゲ(SCHLAGE)などの輸入品を販売していました。大正のはじめに日本独自の錠前をつくろうということで、イェール社の製品を参考にして箱錠をつくったのがはじまりです。 古川 もともと日本にも、江戸時代などは蔵にかかっているような大きな錠前があったように思うのですが…。 虎岩 蔵の錠前などは簡単な構造で、一品一用でつくられていて、現在の錠前とは違ったつくりのものです。開ける仕組みは簡単で、うすっぺらな棒=鍵を差し込んで単純に錠の中のバネを下げて開けるだけのものでしたので、カラクリを難しくして開けられないように工夫しているのです。
古川 そのようなカラクリ式の錠前は昔から日本にあったのですか? 虎岩 中国や韓国などから入ってきて、ごく一部で使われていたのでしょう。日本は島国のため外部からの侵略がなかったから、もともと防盗の意識が低かったようです。治安がよかったんですね。当時、日本の普通の家は引き違い戸が多かったでしょうから、しんばり棒で十分だったようですし、お城の門などの開き戸であればカンヌキ(閂)だったので、現在のようなつくりの錠前などは必要なかったようですね。 ところで、「鍵」とは差し込むもので、入れるほうは「錠」ですね。よく「鍵をかける」という表現が一般的につかわれますが、鍵は錠を施解錠するための道具なので、鍵自体に施解錠する機能はありません。「鍵をかける」というよりは「錠をかける」という方が、この行為に近い表現です。でも、「錠をかける」という表現はあまり使われないですね。「鍵をかける」といわれている行為を表すなら、「施錠する」または「ロックする」というのが正しいですね。