2003/05/23掲載

 能登半島の先端の町、輪島。冬は金沢に比べれば雪は少ないのであるが、日本海を渡ってくる北西からの風は冷たく強い。北前船が日本海を往来した頃、輪島は陸路より海路による沿岸諸都市との交流が多く、文化的影響も受けた。また塗師達が全国に商いの旅をし、各地からの情報を持ち帰り陸の孤島ともいえる辺境の地で独特の文化を熟成させてきたことは、他の町にはない輪島の特徴といえるだろう。建築様式もそのような背景の下に変化してきたと思われる。

 
S邸の格子

 輪島の町屋で現在残っているものは、明治以降に建てられた〈浜屋造り〉が多いが、安政時代に建てられた〈平入り〉の町屋が一軒残っている。材木商として栄えた当家のファサードは虫籠(ムシコ)戸が入っている。竪繁格子は、見付14mm、アキ18mmで内側に面取りが施されていて、内から外は見易く外からは中が見えにくいスダレ効果をうまく利用している。格子の内側はかつては和紙貼だったであろうが、冬季の気象条件の厳しい中で、ガラスという新しい素材をいち早く生活に取り込み、独自の建具様式を編み出してきたのである。横桟にガラス溝を彫り、スリガラスの片引き、または引き違い戸がはめ込まれている。通常戸巾は3尺だが、6尺のものはゆったりした感じとなる。日本海側特有の湿度の高い日はこのガラスを開けて、外からの視線をあまり気にせず通風を確保しているのである。

 能登の建築には档と杉が使われる。石川県の県木にも指定されている档(アテ)は、ヒノキアスナロ科でヒノキチオールを含み防腐性があり、粘り強く曲げにも強い、構造材や造作材に使われると共に、柾材は建具に多用されてきた。素地仕上げの場合最初は淡黄色でツヤがあり、年が経ると共にやがて銀灰色に変化していく。私は建て主に固く絞った雑巾での水拭きを薦める。拭き込まれた玄関戸や格子戸はこざっぱりとして喜んでいるかのようである。一方外廻りには、漆はほとんど塗られることはなかった。漆は人間の肌と同じように紫外線には弱いからである。

 

LAST UPDATE [ Fri, 2003-05-23 14:59 ]
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