暗い夜だった。地図でみる駒ヶ根近郊の目的地に近づけば近づくほど明かりもまばらになり、車は舗装も心もとない小道を走っていく。地図ではインターチェンジからラムド・アースのセミナーを行うESIランドという場所への各目印を示していたが、街灯さえ少ない場所でそれらを探すのが困難になってきていた。
「まずいな」
運転していた相棒がつぶやく。車内は高速の途中から怪しげな臭いを発しはじめていた。途中まではこの車オンボロだからかわいいんだといっていたが、ここにきてほんとうにまずい臭いを放ってきた。車にまったく知識のない私は、こういうときはなす術もない。こんなさびしげな道の中で立ち往生したらどうしようとにわかに不安になりだした。
「この道でほんとうにいいの?」
「だってキャンプ場の看板、確かにあったし…」
「でもこのままじゃほんとうに山の中に入っていくよ」
確かにその先はもう舗装もなく、両側にうっそうと茂った針葉樹林が闇のように行く手を遮っている。道は間違いないかもしれないが、明かりがないとか、人は夜早く寝るかもしれないとか、そういうことは考えてもみなかったのだ。ほんとに静かな山の中に夜入るというのは怖い。そのときゴリッと不快な音がして、無遠慮に盛り上がった砂利の塊が、車の腹をしたたかにこすりあげた。
「もう進まない方がいいな」
車を無理やりUターンさせて引き返し、少しひらけたところに車を止めエンジンルームを開けた。冷却水がグツグツと煮立っていた。周りを見回しても目にとまるものは何もなく、斜面を見下ろすと遠くに駒ヶ根市街の明かりがわずかに見えるだけである。
「とりあえず、山を下りよう」
山道をごとごと下り、市街へ行くつもりで大きめの道まで出た。その道をしばらく行ったところで、真っ暗な中にひとつだけ明かりのついている家が近づいてきた。引き寄せられるように車を寄せてみれば、こぢんまりとした住宅展示場のモデルハウスである。
夜中じゅう、部屋の明かりをつけっぱなしにしているらしい。アメリカ風のポーチがあって、そのデッキから中をのぞくと、大きなソファーのある理想を絵に描いたようなリビングがこうこうと照らし出されていた。
こんな地方都市の、こんなさびれた道端で、夜中に、だれに訴えようとしているのか知らないが、このギャップになんか疲れがどっと出た。当然モデルハウスの鍵が開いているはずはなく、私たちはその晩ここの駐車場で、その明かりに照らされながら眠った。

           

LAST UPDATE [ Mon, 2003-01-27 15:43 ]
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